津村記久子 『ミュージック・ブレス・ユー!!』
髪の毛を赤くして背が高くて歯を矯正中で始終ヘッドホンをつけてるアザミは、姿かたちだけでなく、その言動からしてちょっとばかり浮いた存在。そんな彼女は、自分の限界を知ってしまっている。いや、決して限界ではないのだけれど、あきらめにも似た感情、が常に彼女にはつきまとっている。でも彼女には音楽がある。常につけているヘッドホンから、それがなくたって頭の中で音楽が熱を持っている。芥川賞受賞の津村女史の文章はポップで楽しかった。ほんとに音楽が流れるようにアザミのキモチが流れていく。次々と飛んでいく話はとっつきにくかったけど、とにかく楽しい。アザミが自分のことを「あたしは出がらしみたいなもんやし」p.87といったのには仰天した。自分に劣等感を持っているとはいえ、出がらし!それでも、彼女は自分には音楽があるからそれさえあれば、と人並みには歩いていけないかもしれない人生と知りつつ肯定して生きている。自分を肯定させながら、そう言い切らせてしまえることが凄いと思う。彼女の日常はチユキという親友と音楽とで成り立っていて、多くの人がそうであるように、特に大層な事件が起きるわけでもなく平凡な日々が続き、そして綴られていく。まあ、チユキの行動は平凡とはいいがたいところもあるが。その平凡な日常の中で起こる小さな葛藤。思っているように事が進まない、思っていることの半分も相手に伝えられない、思っていることと真逆のことを口に出してる等々。誰でも抱えているジレンマが、アズミの場合他の人よりちょっと大きいのだが、その日々が共感できて楽しい。正直洋楽なんてさっぱりチンプンカンプンで、なんじゃこのカタカナの羅列!と思いつつも、その薀蓄の奥深さが楽しい。あまりにも細かく好きになっている音楽について、相手を置いてけぼりにしてひとりでしゃべり倒すことがいけない…ということを判りすぎるほどわかっている自分にそっくりのトノムラの存在に気がついたけど、だからといって相容れるわけでもないアザミが楽しい。東京弁先生に対して申し訳ないなあと思って一応勉強したりするアザミがかわいい。そして、友人に起こった事件を自分に引き付けて心配し畏れを抱くアザミを、本当にかわいいなあと思ってしまったのだった。
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