な行の作者

長嶋有・西村すぐり

中山聖子 『チョコミント』 【児童書】

家出。なんて魅力的な言葉でしょう。でも、かなりの行動力と決断力、それに精神力が試されます。ガキの頃だったらぷいっと家を出ても怖いものなんて何にもないかもしれない。でもある程度の大人になってしまったら。家庭という責任を負っていたら。いやいや、本当は行動力も決断力も精神力もどれも何もいらないのかもしれない。そんなものあったらかえって出て行けないのかも。あくまでも、ふらっと。この世からいなくなるかのようにさらっと。

鮎子のお母さんは、まさにふらっと愛犬の散歩途中にいなくなります。消息こそ、まめにお父さんに知らせてきますが、春も終わり夏休みが始まっても帰ってこない。お父さんはそっとしおいてあげなさいというけれど、小6の鮎子と小3の弟の遥斗はるとには、少しずつわだかまりができていく。あの時の私の反抗が、ぼくの言動がお母さんを追い詰めちゃったのか・・・。わからないことで悩んでも堂々巡りするだけ。日々の生活はお母さんといた時と変わらず、同じように過ぎていきます。鮎子自信も友達関係で悩みがあったり、遥斗もちょっと荒れてきちゃったり、同じような毎日でもお母さんがいないだけで、微妙にずれてくる日常。ずれてきている状態を正常にもどしたくても、どうしていいかわからない。そんな時に背中を押してくれたのが、隣のクラスの卓郎でした。彼は鮎子をキチンと見て認めてくれていた。自分を認めてもらう。こんなにうれしいことがあるでしょうか。もしかしたら、お母さんにもキチンと認めてもらえてないかもしれない自分だけど、見てくれている人はいる。そして鮎子は一歩を踏み出すことにします。

お母さんという存在は、いつでも目の前にある近い存在。でも、お母さんだって一個の女性という人間。彼女にはこども達の知らない過去があり、その時その場面で考え思い培ってきたことがあるのです。知りたいような知りたくないような、そんなお母さんの別の一面。鮎子から見たら、ワガママだと思う家出という行動も、お母さん=里香子側から書いたら、また別の物語が一本生まれてしまう。

結局、壊さないと何も生まれないということでしょうか。壊したことによって失ったものもあるけれど、得た物も多い。そしてそれは、これから一人ひとりが、未来へと歩いていく糧になるのでしょう。

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チョコミント (学研の新・創作シリーズ) チョコミント (学研の新・創作シリーズ)

著者:岡本 順,中山 聖子
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西村すぐり 『ぼくがバイオリンを弾く理由』

ぼくがバイオリンを弾く理由 (ノベルズ・エクスプレス 2) ぼくがバイオリンを弾く理由 (ノベルズ・エクスプレス 2)

著者:西村 すぐり
販売元:ポプラ社
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スカイエマさんの素敵な表紙。それにしても、最近よく見かけますねスカイエマさん。どの本もイメージが同じになってしまう感があるのは否めませんが・・・という自分もエマさんの表紙に魅かれて手に取りました、この本。優秀で引っ込み思案な少年が挫折を味わい親や兄弟とも上手な距離が取れない時、特殊な大人たちや自由な友人たちと交流を持つことによって視野を広げ家族の絆を見直し、また新しい一歩を踏み出して成長していく・・・定番です。でも、このパターン、一番感動するんだよなあ。

ところで、その昔、故朝比奈隆氏の指揮でベートーヴェンの交響曲第5番「運命」と第6番「田園」を聞いたのですが、常日頃カラヤンの雪崩落ちるような「運命」と、ゆったりしつつも華やかな「田園」を聞き慣れていた自分には、とてもゆっくり過ぎて入り込めず半分寝ながら聞いていた、という失礼な思い出があります。それはともかく、その帰り偶然一緒になった大学で美術学科を専攻していた友人が、その演奏を「本当に田園が見えるようなキラキラした緑とか麦の色合いを思い浮かべた」と表現したのです。「運命」も然り。鮮やかな色彩を挙げて抽象的な表現で感想を述べてくれたと覚えています。「どんな色だと思った?」と聞かれてものすごーく困った。だって、半分寝てしまうくらい何も得られなかったから!その時強く思ったのは、芸術に優れているというのはこういう所にも現われるんだなということです。音楽が色を伴った風景として彼女の中を流れている。音も色で表現できる。すごいなあと本当に感心したのでした。

この話のカイトくんがバイオリンを弾いている様子を読んで、彼女を思い出しました。カイトくんは感覚で音をとらえバイオリンで表現している。こうしようああしようとがんばらなくても、音が表したいことを感覚的に捉えられる才能を持っている。上手くなって世に出るということは、才能を他人に認められないといけない。でも世の中に認められということは、そんなに甘くなく自分の思う様にはいきません。自分を取るか世間を取るかの挫折。でも、結局は自分自身が楽しくなくては、相手には伝えることはできない。つまらないと思っていると、顔に出るように音にも出るでしょう。バイオリンのソロコンサートで、弦が切れて演奏が中断したことがありました。でも、あれは本当に観客が最低だったんです、自分も含めて。きっとソリストもつまらないと思いながら弾いていて、切ってしまったんでしょう。いろんな意味でつまらないコンサートだったと覚えています。その反対に、演奏者の思いと観客の思いが一体になり、震えがくるほどの感動が起こることがある。音楽ってすごいなと思う瞬間です。カイトくんが新しく得た友人たちと一体感を得て、音楽の力を、そして自分が弾きたいと思う理由を実感した瞬間、とても感動しました。少々、意固地なところがある大人び過ぎた小学生のカイトくんですが、ひとつ壁を乗り越えて成長した音色を聞いてみたいですね。YAな方達のクラッシック入門的に、もう少し曲名とかあってもよかったのにとも思いました。

ベートーヴェン:交響曲第6番 ベートーヴェン:交響曲第6番

アーティスト:朝比奈隆
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ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」&第6番「田園」 ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」&第6番「田園」

アーティスト:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 カラヤン(ヘルベルト・フォン)
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長嶋有 『ぼく落ち着きがない』

ぼくは落ち着きがない ぼくは落ち着きがない

著者:長嶋有
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日常はとめどなく続く。てなことを思ったおはなし。何が落ち着きないんだと思って読んだんだけど、桜ヶ丘高校の図書部のたるーい(失礼)、けれど充実した活動の日々が書かれていて、主人公の望美ちゃんなんてむしろ落ち着き払っている。あえて言うなら、図書室の両開きのドアをゆらゆらと開けて、更に部室のドアを押し開けて入ってくる部員達の出入りの激しさが落ち着かないかな。たらたらとしたゆるい雰囲気に油断してると、一体誰が誰だかわからなくなるんだもの。図書部に流れる一体感とあふれる居心地の良さ。それは本が好きだーと思っている望美ちゃんの視点で話が進むからだろうか。彼女の視点はバランスよく、そして変な部分に細かい。でも、その細かさがストンと胸に落ちるような感覚を覚えさせてくれてこれまた心地よい。本を読んでいたからこそわかるのよこの気もちーってなところとか、長嶋有さんって女性なのかって思った。他の部員から見ていたらまた別な感じの図書部がそこにあるのかもしれない。同じ目と鼻と口を持っていても全く違う顔をしているように、同じ部で仲良くひとつ方向を目指しているようでも、心の中では全く違う思いを抱えている。ゆるい部室にもリアルがちょろちょろと顔を出し、話を引き締める。しかし、ここまでのん気な高校三年生も珍しいよな・・・。あ、ウワサの片岡哲生、エピソードだけでとうとう絡んでこなかったのが残念・・・って思ってたら、忘れかけてた頃、もしかしてこれって?と思えるさりげない場面・・・。んー雰囲気に流されてたらたら読んでたらダメなおはなしだったかも?

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